知恵熱という物語

愛息は、特別なイベントのあとによく熱を出す。

保育園に入園した直後。お祭りで夜桜を見に行ったあと。イオンタウンで遊んだ翌日。水族館から帰った翌日。

こうして並べてみると、まるでイベントの感想文みたいに熱を出している。

僕は勝手に、情報が多すぎて頭が処理しきれなくなった結果なんじゃないかと思っている。大人だって旅行のあとや人混みのあとには妙に疲れる。まだ1年も生きていない愛息なら、なおさらだ。

だから僕の中では、あれは知恵熱だ。

でも医師に聞くと、「知恵熱というものはありません。単なるウイルス曝露です」と、あっさり否定される。

たしかに医学的にはそうなのだろう。

それでも僕は、少し納得がいかない。

だって水族館では、あんなに目を丸くしていたのだ。大きな魚が横切るたびに身体を乗り出して、水槽の光をじっと見つめていた。小さな頭の中で何かが忙しく動いているように見えた。

だから熱が出ると、やっぱり知恵熱なんじゃないかと思ってしまう。

親というのは、自分に都合のいい物語を作る生き物なのかもしれない。

今日も水族館の刺激が強かったのか、案の定、熱が出た。

明日は保育園を休んで午前中は病院。僕は午後から出張がある。

心配だから本当はそばにいたい。でも仕事もある。

奥さんに任せて家を出る準備をしながら、熱で赤くなった頬を眺める。

父親という役は、いつも少しだけ中途半端だ。

病院に連れて行くこともできるし、看病することもできる。でも、そのどちらも最後までやり切れない日がある。

小さな身体と、大人の予定。

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