
診察の日だった。
病院までは車で2時間。遠いと言えば遠い。でも、気が付けばその道をもう30年近く通っていることになる。
僕は今年で病歴30年目になる。発症したのは22歳の頃だった。そして、その頃からずっと同じ病院に通い、同じ主治医に診てもらっている。
今は奥さんも一緒に診察室に入るので、診察時間は30分くらいある。診察といっても、最初は決まって世間話みたいなところから始まる。
「台風はどうだった?」
そんな話題から始まる精神科の診察は、たぶんあまり一般的ではない。でも、僕にとってはそれが当たり前だった。薬の話や症状の話だけではなくて、その間にあった生活を確認する時間でもあるのだと思う。
診察の日はほぼ1日がかりになる。保育園の送迎もできないから、最近は家族3人で出かけることが多い。
待合室で愛息の顔を見た主治医が、満面の笑みで言った。
「おじいちゃんだよ〜」
その言葉が妙に心に残った。
考えてみれば、僕が22歳で発症してから、ほとんど毎月顔を合わせている。30年近く、人生の節目ごとにそこにいた人だ。そう考えると、自分の孫を見るような気持ちになったとしても不思議ではないのかもしれない。
僕は、自分がここまで回復できた理由の1つは、主治医との信頼関係だったと思っている。
調子が悪かった時期も、何もかも投げ出したくなった時期もあった。でも、そのたびに診察室に行けば同じ人がいて、同じように話を聞いてくれた。
結婚したことも喜んでくれたし、子どもが生まれたことも本当にうれしそうだった。
精神科医と患者という関係なのだけれど、それだけでは説明できない長い時間がそこにはある。
ネットを見ていると、ときどき患者を見下したり、知識の多さで優位に立とうとしたりする医師の発信が目に入る。そういうものを見るたびに少し寂しい気持ちになる。
病気を診るだけではなく、その人の人生を見てくれる医師。
僕の主治医のような人が、もっと増えたらいいのになと思う。
